前医と後医

内科専門医メーリングリストで「患者の前での前医に対する非難」という話があり、それについての私見をここにまとめさせていただきます。私達開業医は多くの場合、患者様を最初にみて、必要な場合他院に搬送したりする一次医療をになっています。もちろん、専門、得意不得意がありますので、例えば私の場合、心エコーは現時点では完全に3次医療のレベルにあると思っています。大きな病院で通常は2,3次医療を受け持っている医師でも、検診をしたり、急病センターなどのバイトをすれば、その間は完全に一次医療を行うこととなります。もちろん、初診患者外来をもうけている病院では、初診を診る医師は後で診る医師よりも前医になるわけです。このように、いつも絶対に後医の立場になっていることはまずあり得ません。

さて、常識的に考えれば最初よりも後で見た方が情報も多いし、診断なども正確になるのは当たり前です。内科医は、いつもCPCでは病理医に最終診断を突きつけられ、ある場合は納得し、またある場合は反駁し、ときには愕然とすることはよくあることです。このように前に診る医者というのは不十分な情報の中で、いかに効率よく診断し、的確なカテゴリーの医療圏に入れるかという事が最も大切だと思います。たとえ、その方向性が正しくなくても、次に診る医師が正してやればよいのです。最初から、まったく完璧な医療を遂行することは目標ではあるのですが、いつも可能であるとは限りません、むしろ不可能なことの方が多いです。どのように不足した情報の中で、前医は診療していたかわからないわけですから、なにもそこで、特に患者の前で前医を非難することは、医療不信をあおったり、病診連携の信用を傷つけるだけです。しかも、先に述べたようにいつ自分が前医の立場になるかわからないわけですから、そういう行為を習慣づけていると、必ず自分に降り懸かると考えた方がいいと思います。確かにレベルの高くない医師や、問題のある医師は存在しますが、患者様の前でその医師をけなしてもその医師のレベルはあがりません。次に診る医師が大事なことは、前医を非難することではなく更に患者をよりよいカテゴリーの医療圏にすすめることなのです。

私がいいたいのは、こういうことは指導する立場にある医師が伝えていかないといずれ忘れられてしまうということです。個人が自分を高めていっても、一人では世の中は変わりませんが、各人が高めていけば、集合体の意識として世の中は変わっていくと信じています。そういった意味で、私は一生「患者の前では、前医を非難することのない医師」を貫きたいと思います。 inserted by FC2 system