中津病院検査室について

私は元々済生会中津で研修をしたのだが、診療所開業後、2000年の夏頃だったかに、済生会中津病院のOB会で当時循環器部長だった瀬尾俊彦先生から、検査室のエコーの教育に来てくれないかと言われ、検査室に指導に行くようになった。最初は月2回行っていたように思うが、すぐに医師会などの仕事が忙しくなり月に一回行くようになった。その後、紆余曲折はあったが、ほぼ23年間、毎月検査室で検査技師等の指導と教育を行っていたが、2024年3月をもって終了した。中津は症例に富んでおり、こちらも大変勉強になったのでいくつかのエピソードをここにまとめておこうと思う。

1.教育スタイルの変遷

当初は、エコー室で記録されたビデオを再生して全ての症例をチェックしていた。聴衆は最初は担当の高岡検査技師と瀬尾先生くらいであったが、そのうちに研修医にも案内され集まるようになってきた。最初は、私が全て初見で読影し、診断、病変の部位、撮り方などを解説していた。ほとんど3-4時間一人で喋りっぱなしで、帰りの電車では疲れて寝ていたことを思い出す。1年もそう言ったスタイルでやっていたが、徐々にレベルが上がってゆき、撮影者にプレゼンしてもらうスタイルに変わっていった。おかげで、こちらはじっくりと画像を見てから発言することができて、深みが出てきたように思う。その後エコーがデジタル化されてゆき、エコー画像ワークステーションから画像を呼び出してするスタイルに変わっていった。おかげで、臨床の背景を電子カルテから簡単に呼び出すことができて、冠動脈所見やCT所見と簡単に対比できるようになり精度が上がっていったと思う。中津は当初は技士1名が約2000-3000例を1年間で撮っていたが、技師の増員、機器の追加により最後は年間10000例近くの症例を検査していた。教育され一騎当千の力を持った超音波専門技士が次々と誕生し各自があちこちで発表講演をするようになっていった。

2.印象的なエピソード

大動脈弁2尖は腐るほど見てきたが、画質が向上するにつれて、4尖弁のみならず、1尖弁もあったのには驚いた。また僧帽弁病変も豊富で、複数例の重複僧帽弁口や、Mitral arcadeなど滅多に見ない症例もあった。

2007年前後には高谷先生がエコー室に出入りするようになり、症例報告を英文論文にするようになってきた。限局性の心脳液貯留によって左室虚脱を示した、悪性リンパ腫の一例を英文論文報告した。この左室虚脱はカンファレンスで私に指摘されるまで、誰も気がついておらず論文の価値を高めることができたと思う。論文の査読レフリーも左室虚脱の病態を知らなかったため、左室虚脱を解説する論文を読んで査読者にわかるように英文で何度も書いたのを思い出す。

2013年ごろから山崎正之さんが参加し、検査技師の発表の論文化を試みるようになってきた。驚いたことに山崎さんは、私のホームページの記述を読んで勉強していた。徳島大学の某先生も、私のホームページを熟読されていたらしく、自分の出版物に図を載せていただいたようであるが、意外とプチ読者が隠れていたのかもと思う。山崎さんが赴任後に、感染性心内膜炎では珍しい右心系の感染性心内膜炎を立て続けに経験し、日本では数例目にあたる肺動脈弁単独の孤発性感染性心内膜炎症例を発表、論文化した。ついで、論文化を試みた心ヘモクロマトーシスは、超音波医学という和分論文にしたのだが、レフリーの一人がOKしていたのに事務局の手違いでもう一人のレフリーに返事が届かず危うく時間切れでリジェクトになりそうになった。しかし、こちらからせっついてなんとか査読してもらい、論文化できた。苦労の甲斐があって、表紙を飾ることができた。この症例は実はカンファレンスで私の直感で診断した症例であった。血液内科に入院している壁運動が低下した患者の画像を見て、心ヘモクロマトーシスと直感し、電子カルテをチェックさせてFerritinを調べ、生検をさせて確定診断した。それまでヘモクロマトーシスの心エコーは1例しか見たことが無かったのだが、このときは頭の中に診断が降臨してきた。そのあたりの診断根拠はrestrictive diastolic wall motionであり、詳細は以下に記してある。http://takecli.web.fc2.com/echo/tech/Snapechodiagnosis1.html

非感染性心内膜炎NBTEは通常基礎疾患があるものであるが、全く明らかな基礎疾患のない典型的なNBTEに遭遇し、超音波医学に投稿した。当初レフリーは「ふざけるな、基礎疾患が見つからなかったらそんなものは論文にする価値がないのだ」と怒っていたが、海外論文で、基礎疾患がなくても、なんらかの原因で凝固因子活性が活性化されたり組織因子が活性化されたりしてNBTEが生じると解説してある論文を何度も説明して論文化できた。これも表紙を飾った。さらに1尖弁による重症ASも超音波医学の表紙を飾った。

私は、基本的に学会参加していないので、査読者の先生との議論は非常にためになった。私とdiscussionした先生方もにもお礼を述べておきたい。

エコー検査室のカンファレンスの画像を見てゆくことで、自分自身の知識や感覚も研ぎ澄まされてゆき、冠動脈造影検査所見を書き直させたこともあった。どう見ても下壁梗塞の心エコー図所見が冠動脈造影の所見と合わないと、技士が言ってきた。エコーの壁運動は心筋の壊死状態を反映し、一旦閉塞して再開通した場合や攣縮などの関与している場合には冠動脈所見と相違が出ることを説明したが、念のために、エコー画像と冠動脈造影の所見を両者見させてもらったところ、エコーは正しく、冠動脈造影所見ではsmall RCAと記載されていたRCAが#3 total であり、よく見ると左から側副血行がいっていたことが判明した。カテ所見はカテ室での術者の印象で記載されており、本来は複数の検者によってカンファレンスされるべきであり、今後そうしてもらうように申し入れた。

エコー図の壁運動や弁運動をBmodeの動画から瞬時に診断してゆくことが多くなってきた、この技術もSnapecho diagnosisのシリーズで述べてあるが、具体的には、単なる内膜の動きを見ていて診断していただけから、壁厚の変化を着目して診断してゆき、さらに拡張期の壁運動を見ることで診断力が上がっていったように思う。ホームページに概説してあるが、眼の前で説明した方が理解しやすいと思うし、実際に検査室の検査士らはそう感じていたと思う。

これも長年、検査室の心エコーを指導してきた賜物であろうと思う、天性のものではない。皆がなぜ、どうしてといってくれる検査士がいっぱいいたからだと思う。たくさんの素晴らしい目と何度も疑問に思う柔らかい頭脳を持った検査士たちにも感謝しかない。

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