救急救命士との関わり

私は、実は消防や救急関係者のメーリングリストである山陰災害救急メーリングリストに99年の5月から参加しています。そのわけは山陰災害救急メーリングリストの小田先生が「インターネット上で気軽に救急や医療のことを相談できる:サイバーERを設立したいので参加者を募っていた」呼びかけに応じたため参加させていただいているのです。おかげで、山陰災害救急メーリングリストのホームページには名前が載っております。

このメーリングリストを通じて、救急疾患や心臓病・不整脈などについて色々な方からご質問があれば、私の分かる範囲で答えさせていただいていたのですが、いつも感じていることは、本当に救急救命士の方々は勉強熱心だなあということと、インターネットの検索機能を使えば、こういう医療に関してもかなりの事柄が調べられるのだということですね。実際にあった応答を下に書きます。

>サイバーER受診です。
>心臓喘息の発症機序を教えて下さい。
>普通の喘息と異なるのでしょうかのでしょうか

通常は、心不全は肺胞が水浸しになる状態で、吸気に水泡音が聞こえるのですが、気管支喘息と同様に呼気にWheeze(ヒュー音)が聞こえることがあります。喘息と同様に細小気管支が狭窄を生じて起こっているのですが、この機序について正確には知りません。しかし、次の2つの説があったように記憶しております。ひとつめは、細小気管支の浮腫による狭窄です。心不全の場合、肺胞のみならず細小気管支もうっ血を生じ、そのため、細小気管支が狭窄しているというものです。これが一般的には理解しやすい機序と思われます。もう一つが、気道過敏性によるものです。気管支喘息は慢性の気道炎症による気管支の狭窄とこの気道過敏性による気管支のれんしゅくによって生じるのですが、心不全患者にもこの気道過敏性があることを、私の先輩の神戸大学の西村善博先生が論文にしておられました。つまり、心不全でもこの気道過敏性の多い患者は細小気管支がれんしゅくを起こし狭窄して心臓喘息という病態になるという説明です。ちなみに、この気道過敏性を知るための検査がアストグラフという検査です。(あまり聞いたことがないかもしれませんが・・・余談でした。)
>
> 救急現場で時々出会う、発作性上室性頻拍の発作の原因は、
>WPW症候群とか潜在性WPW症候群など、刺激が心室から心房に伝わる、
>副伝導路が有る事により、何かのはずみで、心室の刺激が心房に伝わり、
>刺激がぐるぐる回ることにより起きると記憶していますが。
> この時の症状の差ですが、これは房室結節における刺激の透過性の差により
>心拍数が異なり、透過性が良いほど心拍数が上昇して、心臓の負荷が増大して
>症状が重くなると考えてよろしいでしょうか。

症状と、心拍数は必ずしも関係ありません。一般的に言うと、症状は1)一回拍出の減少によるLow out putの症状(ふらつき)、2)頻脈の症状(動悸)、3)拍出の減少に伴ううっ血の症状(呼吸困難)、4)それらに対する不安感などがあります。人間にはホメオスタシスという慣れの機構があり、これらの症状はその発症が急性であると強く、慢性だと感じにくくなりますし(たとえて言うと、地震はわかるがそれだけの地層のずれが100年かかったら自覚しない)。発症前の心機能(悪いほど、うっ血や一回拍出の減少が著名になりやすい。)、心膜の伸展の程度や、感覚(よく感じる人かそうでないか)などが、複雑に合わさって出ると考えていただいた方がよいです。

といった感じで質疑に応じてきていました。最近中央区の救急救命士の方々とお話しする機会があり、私のホームページを見ていただいてくれているとのことですし、その他にも、救急救命士の方々にはお世話になっていますので、もう少し、救急救命士との関わりを書いてみます。

神戸の救急救命士制度は、10年近く前から始まったと思いますが、この教育にあたったのが神戸大学第一内科の川合先生です。私と同じグループの後輩で、非常に優秀な方です。彼は、本当に教育に熱心で、いまでも大学病院や、心エコーの検査士を熱っぽく指導しています。神戸の救急救命士に川合先生のお名前を出すと、非常に懐かしがられる方が多く、こういうところでも接点があるもんだなあと思います。また、私も、今まで、色々な病院で検査を通じて、人を教育指導してきましたが、いつも感じることは、教育する側がいつも教わることが多いのだということです。そういったいみで、救急救命士の方々は勉強熱心でこっちが驚くようなことがあります。

餅を詰まらせた患者の場合、気道から上手に餅を取ることは、なかなか実際は難しいのですが、ラッパヤンカー(ヤンカーカテーテルの先端を切り取りラッパ型に加工した器具)や経鼻チューブによる吸引など、それらのアイデアを考えた隊員の素晴らしい発想にいつも驚かされています。

私は、実際上は、救急患者の搬送でお世話になることが多いですが、一度だけ、往診先にArrest Apneaになった患者を往診先で救急救命士と一緒に蘇生、処置を行い、病院にかつぎ込みましたが、あっさりDOAと診断されてしまったこともあります。この方は糖尿と心筋梗塞の既往があり心臓発作だったのでしょうが、心臓救急をやっていた経験があるものとしては、やや、悔しかった経験でしたね。 inserted by FC2 system