診療所見学のしおり

医療技術は手取り足取り教えれるものではありません。これからもそうなると思いますが、他の医師の技術を盗んでやるくらいのつもりでないと修得は不可能です。私の診療を見て疑問に思うことがあれば、質問して下さい。分からない事を素直に質問することは医師自身の成長に取りとても大切だからです。
1)診療所の診療の実際:患者の身体を生物学的に診るのみでは医療は成り立ちません。全人的医療モデルに沿った患者とのコミュニケーション、医療面接、身体所見の取り方、コストや患者背景を考えた検査選択、患者心理の理解の仕方などの実際を体験してください。
2)診療所の特性を理解する:診療所は患者の住居に近く、地域での接点を持ちやすく、毎日同じ医師が診療するため医師個人の考えを反映しやすい、といった特性があります。
私の診療の基本的な理念は、「もし、自分又は自分の親が患者だったらどうして欲しいか?」という点を重要視しています。特に疾患に関しては、患者の自助努力を援助して生活習慣を改善させることを大切にしています。薬物のみに頼らず、心と体の関係をうまく利用して、自己治癒反応を誘発したり、自己管理をさせるようにすることで、きめの細かい診療を心がけています。私の専門技術は心エコーです。もちろん循環器診療の大切な知識ですが、高度な専門性があるため難しいかも知れません。詳しく知りたい方は、私のホームページにアクセスいただくか第一内科の川合宏哉先生に教わってください。
3)病診連携について:診療所では医師は一人のことが多いですが、自己完結型の診療をしていては患者のためになりません。病院内でもそうですが、他の医師との連携を大切にして行かねばなりません。患者のことを第一に考えれば、患者が受けた検査や治療は本来患者自身のものであり、それを見る全ての医師に還元されるべきです。当院では基本的に検査結果は患者に渡していますし、診療所で診ていた患者を病院に送ったときには、必ず病院から診療所に返事を欲しいと思っています。病院で勤務しはじめたときには患者や前に見ていた医師の立場を考えて必ず連携を取りましょう。思ってもいなかった情報を診療所の医師は知っているかも知れないし、何より地域の医師との信頼関係を築く第一歩になると思います。その時、十分に気を付けていただきたいのは、前の医師を安易に非難しないことです。最初よりも後で見た方が情報も多いし、診断なども正確になるのは当たり前です。次に診る医師が大事なことは、前医を非難することではなく更に患者をよりよいカテゴリーの医療圏にすすめることだと覚えておいて下さい。
4)保険診療の実際について:日本の医療はWHOで世界一と賞賛されているフリーアクセスと国民皆保険制度の元で、医師が行う行為それぞれに保険上の約束事や縛りがあります。そういう保険上の約束事や、医療事務についても実際を体験して下さい。
5)診療所での機器とTool:診療所毎に、特性を持った診療toolを持っています。実際診療で役立つtoolとしてぜひ勧めておきたいのは診察室におけるインターネット(検索エンジンやメーリングリスト)です。診察室にコンピューターを導入して診療業務の補助をさせたり(病気の説明用スライドや紹介状など)、インターネットやメーリングリストで疑問に思ったことや最新の診療の情報を手に入れられます。診療所では迅速に検査結果を判断せねばならない事があり、インフルエンザなどの簡易ウイルスチェックや、簡易血液検査などが有用です。また、検査結果は必ず医師の目を通してからカルテに貼るようにすることで、小回りが利いた診療になっています。

なお、以下にあげる文献は、将来にわたり診療の指針となると思いますのでぜひ購読下さい。
(1)内なる治癒力:スチィーブン・ロック著 創元社 1990年 2600円
(2)家庭医プライマリケア医入門:家庭医療学研究会著 プリメド社 3600円
(3)癒す心・治る力:アンドリュー・ワイル著 角川書店 

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