リクエストコーナー

メールなどで質問のあった事項について解説する新コーナーを設けました。


>いつもお世話になります。
> 今回は計測に関してご教授下さい。poor studyの患者さんでEFを計測する場合に、Mモードでは肉柱、腱索、筋束が邪魔で心室中隔や、左室後壁が同定しずらいため、断層エコーに戻る場合がありますが、断層エコー図とMモード図の計測値がかなり異なる場合があります。断層エコー図ではMモード図より若干大きめに出ると「スタートアップ 心エコーマニュアル 南山堂」にありますがどうでしょうか?壁厚の計測の違いのためでしょうか?

こんにちは。私は、計測に関してはできるだけM modeを用いています。理由は時間分解能が最もよいためです。心臓のような、ミリ秒単位で形態が変化する臓器の計測に置いては、肝臓などと異なり空間分解能のみならず時間分解能が非常に大切になってきます。この時間分解能はM modeはreal timeなのに比し、B modeでは秒30-60と低下しさらにCTなどでは秒1-2と、一枚の画像を作るのに時間がかかるため計測の意味が無くなることは前回説明したとおりです。やや高齢でSigmoid septumで斜めにしか入らない症例でも、肋間を高く取ったり、rt parasternal aproachを用いれば、左室の計測用のウインドウを得ることが5-60%以上可能であります。このウインドウさえ得られれば、M modeがもっとも有用なのはいうまでもありません。
断層エコー図の方がやや大きく出るという理由は、本来同じものを計測しているはずなので同一であるべきですが・・よく分かりませんが、M modeの空間分解能は距離分解能だけであるのに対し、B modeでは方位分解能も関与してくることがひとつの要因かも知れません。セクター型のプローベの場合方位分解能は遠距離に至れば至るほど低下し誤差が大きくなり易くなります。ただ、これが大きめに誤差が出る理由とは必ずしもならないと思いますが・・・

> 胸写上心拡大がある患者さんでも、エコーでは各々のchamber sizeは正常ということがありますが、肥満、体表面積等の問題でしょうか?

胸部レントゲンで心臓のChamber sizeを同定するのは、正面、側面、RAO、LAOの4方向で評価しますが、通常心拡大といえば正面像のみで判断します。心臓の模型を持ってみていただくとよくわかると思いますが、縦に心臓を置くのと横に置くのとではずいぶん横幅が異なって後者が大きくなります。つまり、横位心になれば正面像の心拡大は生じてくるのです。私は、拡張型心筋症の症例をたくさんエコー検査してきました経験から、正面像の左室拡大は主に右心系や心房の拡大によって生じる(これは、きちっとした論文もありますのでお調べ下さい)事を学会報告しています。レントゲンはあくまでシルエットクイズであるとお考え下さい。

> poor studyの患者さんで心不全状態で明らかにEFが低下している場合にEFを評価しなければならない時に、Mモードでは計測困難なため、断層エコー図に戻って計測する場合、左室後壁の同定が困難ですが、断層エコー図で左室後壁の同定に何かいい方法はありますか?

先に説明したように、分解能の問題と思いますが、後壁の分解能をあげるには、方位分解能を改善する(走査線の密度を上げる)、又は時間分解能をあげる(フレームレートをあげる)、濃度分解能をあげる(コントラストを強くする)といった方法が考えられます。もちろん、元のエコーウインドウや後壁に対してできるだけ垂直にビームを刺入するといった基本的操作が最も大事です。先の分解能の改善に関しての操作の方法ですが機種により操作ボタンが異なり、設定を変えなければ行けない場合もありますのでマニュアルを読んで下さい。よって、一概には言えませんが、簡単にはプローベを低周波のものにすることがコントラストをはっきりさせますので認識し易くなります。ただ、こればっかりやるとへたになります。ちなみにpoor studyとはへたな仕事という意味です。

> 心臓の弁膜症の検出をよく見逃し、他の人がエコーをしたらあっさり検出できるという場合があります。心臓の軸にプローベがうまく当たってないためでしょうか?それとも、プローべの体への押し付け方の問題でしょうか?お忙しい所誠に恐縮ですが、ご教授の程何卒よろしくお願いします。

色々原因が考えられます。1.カラーの設定の問題、2.探触子の使われ方が有効になされていない(プローベが肋骨などの上から入ってしまい、エコー情報自体が減衰してしまっている:初心者によくあるミスです、プローベは必ず肋間から入れましょう)3.探触子の操作が荒いために時間分解能がさらに悪化している(プローベは非常にゆっくりと操作するようにしないと画像の断面が移り変わってしまい画像が構成できなくなる)4.ウインドウが不十分でありエコー情報が欠落する(ウインドウが不十分だと探触子の使われ方が有効でなくなります)
いずれかにあたる場合は、気を付けて見ればよいと思います。エコーの撮り方・手順はホームページ上に本院の検査手順に示していますのでよく読んで研究して下さい。


>いつも大変お世話になっております。弁逆流の程度を評価する上でregurgitant
>fractionを求めたいと考えており、練習で全く弁逆流のない患者を対象に左室流入血
>流と、左室流出血流、右室流出血流を求めています。前回お教えいただいた右室流出
>血流は、概ね左室流出血流と一致するようになりましたが、どうしても左室流入血流
>が合いません。TMFは、弁輪部で計測しており、原因は弁輪径の測定が間違っている
>と考えております。apical 2と4chamber viewで測っているのですが、良い方法は有
>りませんでしょうか、ご教授下さい。


Qp/Qsが一致するようになってきたのは技術的には非常にすごいことです。
さて、手元にあります文献で、僧帽弁通過血流から心拍出量を算出したものの概要を以下に記しますと
1)Zuttere.D, JACC1988;11:343-350
2) Fischer D, Circulation 1983:67:872-877
3) Hoit BD , Am J Cardiol 1988, 62*131-135
2),3)はホームページで紹介している文献で古典的なものです
それぞれの方法論とR valueを書きますと、
1)僧帽弁輪径*mean mitral leaflet separation*Doppler TVI:(僧帽弁M modeから拡張期の平均の開放距離を求めたものがmean mitral leaflet separation)R=0.87-0.91
2)僧帽弁輪径*平均拡張期僧帽弁面積(これも、B mode stop frameとM modeから算出しています)
3)僧帽弁輪径*平均拡張期僧帽弁面積(M modeの僧帽弁エコーの上半分を積分して算出)

と、原著をあたると、僧帽弁輪径のみをパイアール二乗して求めているものはないと言うことが分かります。これは何故かと言いますと、4)Ormiston JA Circulation 64,1981,113を見ていただければ分かると思いますが、僧帽弁輪は収縮中期に最小となり、拡張末期に最大となる弁輪径の変化を示し、拡張期だけでも約20%の変動があることが知られているから、正確には瞬時瞬時の弁輪径*血流量という式でしか算出不可能なのです。動脈弁輪は収縮期を通じてほとんど大きさが変化がないので、簡単に算出しても大きな誤差が生じないのですが、房室弁輪は拡張期でさえこのような大きな変動があるため、先人たちは瞬時瞬時の弁輪径*血流量という式で求めるためにM modeの僧帽弁エコーから平均の僧帽弁口面積を求めたわけです。
それを5)Lewis JF, Circulation 70:3:,425-431が拡張中期の僧帽弁輪径をパイアール二乗して求めてもある程度できることを示したので一般的に使われているわけですが、この文献中でも、検者間の差が大きいと指摘されています。
また、僧帽弁輪は必ずしも円形ではなく鞍状であるという論文もあります(Suddle-shape mitral annulus: Weyman A)
故に、僧帽弁輪径を用いて心拍出量を測定する場合
1)拡張期を通じて弁輪径のサイズが一定ではない
2)弁輪が必ずしも円形ではない
ため、拡張期の僧帽弁輪径を用いて算出する5)の方法では誤差が大きく、目安程度にしかならないのです。したがって本来は正確に算出するためには瞬時瞬時の弁輪径*血流量が必要なのですが、算出方法も煩雑でしかも根拠が希薄なため使われていないのです。

こういう歴史的経緯を知った上で「僧帽弁輪径を用いて心拍出量を測定する」事がいい加減であるというのを理解することはとても大事だと思います。僧帽弁輪径を用いて心拍出量を測定するデータが大動脈駆出と合わないのは当たり前ですし、それだけ技術的に正しいステップを踏んでいるという証拠だと思いますよ。


山口県の方からの質問です。

>はじめまして、心エコーという雑誌を拝見して、このHPを知りました。いろいろ参考にさせていただいてます。私は心エコーを始めたばかりの検査技師です。
>早速ですが1つ教えていただきたい事があります。画像の出し方や読み方は沢山の本やHPが出ているので勉強出来るのですが、レポートの書き方がよく分かりません。周りに全く教えてくれる人がいないので参考となるレポートがなく、どういう症例の時にどういう書き方をすれば良いのか、悩みの種です。
>いままで何も異常が無かった時にはnormal studyと書いていたのですが、もう少し分かりやすいように書いてもらいたいとドクター側から要望があり、ますます混乱している状態です。
>こんな初歩的な質問で申し訳ありませんが、簡単で結構です。こういう書き方があるという例をいくつか教えていただけませんでしょうか?
>宜しくお願い致します。

これって、初歩的どころか非常に難しい質問で、正直言って答えにくいです。
基本的に要求される情報とは1.異常かどうか?2.その原因は?3.そのメカニズムは?というように連鎖して行くものであるからだろうから難しいのでしょう。
従って、1.左室:拡大の有無、肥大の有無、壁運動異常の有無、その他の異常、2.左房:拡大、異常構造物の有無、3.僧帽弁、4.大動脈弁、5.右心系、6.ドプラデータといったように系統立てて順番に記載するのがプラクテイカルでいいのではないでしょうか?
いくつかの病院で心エコーのケースレポートを見ましたが、そういう異常の有無にチェックをして、計測値だけを書くレポートの所もありましたが、私は、基本的にフリーハンドで書くレポートが多いですね。一例を添付しておきましょう。

左室壁運動良好、左室拡大なし、肥大なし、左房拡大あるが左心耳は見つからない(手術時に左心耳縫縮術を受けたためか?)僧帽弁:開放制限あるがMVA 2DE 1.57cm, PHT1.65cm Peak velocity 1.7m/sec, mean PG 4.1mmHgとMSは中等度、また、弁下部病変は中等度. Mr1-2度。TR3-4度PG25mmHg RVIF max velocity 1.2m/secとやや加速あるがcasp separation 17mmありfunctional Tsと考えられる。AoV NCCに強いCalc、開放制限軽度あるがpeak V2.2m/sec, PG19mmHg AR 2度。PTMC後のASD flow認めず。


兵庫県のYAさんからのメールです。

>すみませんふざけたようなことです。心筋梗塞後の患者の場合シャーワを浴びるだけ
>でも負担になるとされていますが、暖かいお風呂にはいると、後負荷・前負荷はどの
>ように変化しますか? それを検討した文献はありますか? もちろんエコーでは無い
>と思いますが・・・ 急ぎませんのでお暇なときに教えて下さい。

それが、こんな事でもあの有名な先生が疑問に思って研究しているんですね。その先生とは鄭忠和先生です。通常の全身浴では、水圧のため前負荷が増えて心臓には良くないとされていたのですが、10年ほど前から41度くらいまでの温泉に下半身浴をすると、前負荷、後負荷ともに温熱による血管拡張作用で減少して心不全にはむしろ良いというものです。文献自体は手元にありませんが、ちゃんと心エコーで研究されていたと思いますよ。
所で、シャワー浴が心筋梗塞急性期に悪いのは、カテコラミン誘発するからで、心負荷が直接かかるわけではないと思います。


今回のリクエストは大阪府のKNさんからです。

「先生のHP、時々拝見してます。デザインがかわってもっと見やすくなりました。
職場の技師さんみんなにもURLを教えました。症例、毎回楽しみにしています。
リクエストで、ペースメーカー心と完全房室ブロックの時のエコー所見ととる時
のコツをとをだしてほしいです。(最近院内でその症例があったので、職場の
技師さんにみてもらいたいのです。)」

ペースメーカー心の心エコー所見で気をつけること

ペースメーカー心の機能については、体表よりからの心電図、マグネット心電図でほぼわかります。心エコー図上は主にリード線を中心とした合併症の検索となりますが、心機能上はひとつだけポイントがあります、それが先の質問とも関連する心房心室連関です。房室弁が閉鎖する機序は、いろいろありますが、その中で最も強い力は心室収縮による力です。完全房室ブロックでは、心室の収縮と心房の収縮がバラバラで、拡張期に心房収縮が終了しても、心室収縮が始まらないため、房室弁は閉鎖せず、左室の方が左房・肺静脈よりコンプライアンス(心筋の柔らかさ)が低いので自然と左室から左房に血液が逆流する現象が生じます。これが、diastolic MR(TR)と呼ばれる拡張期の逆流です。エコー図上に表すときはパルスでもよろしいですが、カラーM modeで逆流血流を表示させるのがよいでしょう。時相と逆流方向が表示されますので、十分な情報と思います。 inserted by FC2 system